元恋人を「名前を付けて保存」する男と「上書き保存」する女がマッチした結果
しがないレストランで働いていた。少し前。
都心からちょっと離れた、平均客単価が2000円を切るような店だ。
そんな店でキリギリスのように働いていた私にとって、Dineに載っているようなお店はめちゃくちゃ敷居が高い。
しかも、奢りますマークってなんだよ。ブルジョワか、ブルジョワなのか。正直、よくわからなかった。奢りたい心境の男の人が。高等遊民かよ。
まぁ私がびっくりするほど美人だったらわかるけれど。私は控えめに言っても美人じゃないし。それなのに、5000円以上はするご飯をポンと頼んでくれる人がいたという初回アポの現実に、頭が混乱していた。
前回の記事:初アポはうしごろで焼肉!恵比寿の夜に出陣!
2回目のマッチは、銀座の焼肉屋であった。
銀座で迷子!大遅刻!!
恥ずかしながら、道に迷ってしまった。前回のマッチングの際、遅れる男は最悪だと言ったのにも関わらず、自分が遅れるだなんて。
だってしょうがないじゃない。銀座なんてあんまりこないし。夜の銀座は生まれて初めてだったかもしれない。と思うと同時に、他人に厳しく自分に甘い事実に自己嫌悪に陥る。
道に立ち尽くしているキャッチのお兄さんに声をかける。
「これってどこですか?」
私自身、新宿に立ち尽くす仕事(献血という名のボランティア)をしていた経験もあり、声をかけるのもかけられるのも得意だ。
「あー、それね、裏行って8階だよ。」
優しく教えてくれたお兄さんにスマイルゼロ円を払ってから身を翻す。
教えてもらってからもお店の場所はわかりにくかった。
なんだか、景観を守るためにお店はビルに詰め込んじゃおう。みたいな小学生的な発想を感じるな。というのが初めて来た夜の銀座の印象だった。とりあえずお片付けは箱に入れて、引き出しに入れちゃおう。上に重ねてっと。ほらね、足場ができた!ママ、片付いたよ!!的な。
お店前で待たせるのは嫌だったので、「先に入っていてください」と頼んでいこともあって、はじめましては席に座っての挨拶となった。
写真通りの男性!とりあえず一安心。
優しそうな男性が座っていてひとまず安心した。第一印象、いい人そう。
「お待たせいたしました。ごめんなさい、道に迷っちゃって」
慣れてなさそうに伝えると、彼は笑って首を振ってくれた。
「どうしてこのアプリを使ってるんですか?」
お決まりの質問を投げかける。お肉が来るまでの時間潰しとなる。
「実は彼女と別れちゃってさ。。。」
聞けば、彼の”元カノ”はとんでもない人であった。マジで平成最後のバケモンかよって感じのいわゆるビからはじまってチで終わるやつ。
「だからリハビリ的に始めたんだ。」
笑ってそう話す彼は、もう過去から立ち直っているように見えた。まあ私も大して変わらないか。そう思いながらロースをつつく。
彼は、いわゆる、私の”元”彼は、焼肉が好きな男だった。
年の割には脂物を多く食べていて、今思うと若い私に好みを合わせてくれていたんだなと思う。美味しいご飯を前にしても、お互いあまり喋らないことが気持ち良かった。生意気な言い方でいうと、ご飯の味に集中できて良かった。
私は、あの、なんともいえない、無言の時間を愛していた。
黙っている時間が、あんなにも心地いい人はこの先もう一生出会えないんじゃないか。なんてことは、ないんだろうけれど。
まさかの視点にびっくり。そういうこと考えてるんだ!
お肉を食べながら過去の思い出に身を這わせていると、相手から話題を振ってきた。あぁだめだ。人と話している時に全く違うところにトランスしてしまうのは私の悪い癖。
「それにしても、このアプリ画期的ですよね」
とりあえず共通の話題「同じアプリを使っている」という方向へ話をシフトさせる。
「でも、正直銀座って、遠いんですよね~」
正直な話、私の家から銀座までは45分くらいかかる。慣れていない土地柄ということもあり、行きにくいというのも事実だ。
Dineのお店はそういうおしゃれタウンにたくさんあって、渋谷や新宿の方がよっぽど出やすい私は、思わず「なんでみんな 銀座のお店にリクエスト送って来るのかなぁ」と本音が漏れてしまう。
私の候補のお店は銀座だけではなくて渋谷や恵比寿も含めていた。
渋谷とかだったら最悪終電逃してもタクシーで帰れるし、一人で朝まで時間を潰す場所だって頭にしっかり入っているのに。
「それはさ」
彼は神妙な面持ちで切り出した。
「きっと、君に気を使っているんだよ」
ん、どういうこと?思いがけない返答に不意を突かれた。
「例えばさ、初めましてで渋谷をセッティングされると、ワンナイト目的だと思わない?」
いやいや、思わないよ、さすがにそれは渋谷にも女性にも失礼すぎるだろ。
「でも、渋谷は円山町があるからそのあとがすごく誘いやすくなってしまうんだよね。」
彼は、続けた。
「表示されてるレストランの価格帯も一緒だよ。三つ全部が同じ価格帯の女性は本当にありがたい。でも、例えば”安いところ・普通・高いところ”の全部が揃っている女性だと、どこにリクエストを送っていいか本当に悩むんだ。」
だって、安いところに送ったら、なんか相手に失礼な気がするだろ。彼は懇切丁寧にそういった。
びっくりした。正直、そこまで考えてリクエストを送ってきていると思っていなかったから。もしかしたら、マッチングアプリという世界は思ったよりもはるかに男性競争社会なのかもしれない。
確かに、女として利用していると不便は一ミリも感じない。一日に5件はリクエストが送られて来るし、気に入ったTOPPICKSの男性に自分からいいねを送ってもマッチすることがほとんどだ。それは私が若いということも加味されているのかもしれないけれど。
しかし、今回も、前回も、”そもそもマッチしない”だったり、”続かない”だったり、うまくいっている人が少ないと感じた。
私が会いたいと感じている人は、他の人からは会いたいと思われていないのかもしれない。と、ふとこの時感じた。
私はどうだろう。私は、会って、アタリだったのかな。
とりあえず一通りのお互いの話をして、盛り上がったので、楽しい気分のまま解散した。
もう一度会ってみたいと思ったし、楽しかった。
けれど、なんだか彼はまだ、私ではなくてやっぱり彼を傷つけた元カノを見ているみたいで、その埋め合わせに自分が適任なのかと考えると少し複雑な気分になった。
もっと、なんか、ピンとくるような人はいないのだろうか。会った瞬間に、あぁこの人イイな、と思えて、話してからもイイなと思えるような。
私はディズニープリンセスにはなれなかった。わかりきっていたことだが。まぁまだ2人しか会っていないのだから、気楽にいこう。
でも、いつからだろう、いつから自分は、こんなに恋愛下手になったのだろう。お酒を飲まないと盛り上がれなくなったのは。奢ってもらえないと不満になったのは。つまんない。私、本当につまんない女になったなぁ。
電車に乗る。一瞬なんの為に自分が銀座まで来たのかわからない感覚に陥った。誰に、なんのために会いに来たのだろう。足元がふらつく。
でもさ、もう一人はいやなんだよ。もう、あんな寂しい夜を越えたくないんだ、私は。
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